劇場からの失踪-映画批評ブログ

映画をこよなく愛するArchによる映画批評

今蘇る、戦場を生きた彼らの軌跡『彼らは生きていた』劇場映画時評第13回

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人類史上初めての世界戦争「第一次世界大戦」

当時のイギリスは混沌と興奮で満ちていた。戦争の恐ろしさを知らない若者達は我先に、と志願し国のために戦場に赴く。戦場にも関わらずその様はピクニック。

しかし、突撃の命令が全てを瓦解させる。

モノクロ,音声なしの映像を修復してカラーリング、当事者のインタビューを交えながら完全再現された音響が戦場をリアルに表現する。

生々しい戦場の再現、それは未だかつてない第一次世界大戦の顕現。

この映画は語り掛けてくる。『彼らは生きていた』のだと。

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劇場で観た作品を死体の沈んだ砲弾孔の水を煮沸して飲むようなスリリングさで紹介する劇場映画時評回「劇場から失踪」第13回

どうもArchです。今回紹介する作品はピータージャクソン監督作『彼らは生きていた』です。

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題名:『彼らは生きていた』

原題:『They Shall Not Grow Old』

制作国:イギリス,ニュージーランド

監督:ピーター・ジャクソン

製作年:2020年

 

 

【紹介】

彼らが生きていた戦場

この映画で終始一貫しているは"戦場で何が起きていたのかを限りなく、リアルに描こうとしている”ということ。そのために当時の戦場で若者たちが何を感じ、何を考え、どう生きていたのかを明瞭に具体的に描いています。例えば彼らがどこで眠り、何を食べていたかだったり、またトイレをどうしていたか等をしっかり描いているわけです。

 それらを描くにあたって、今作が行ったことは当時の映像を現代の技術用いて再構築することです。

第一次世界大戦は開戦された1914年。当時の技術は現在に比べてまだ稚拙で、戦争の記録映像は全てモノクロ映像。記録状態も悪く、音声を録音する技術もないため、第一次世界大戦を題材にしたものは当時を再現したものとは到底言えなかったわけです。しかし本作は『ロードオブザリング』のピーター・ジャクソン主導の元、約100時間の当時の映像資料を修復し、カラーリング。また映像をよりリアルにするため、3D技術を用いて違和感を取り除き、『ロードオブザリング』シリーズの音響でアカデミー賞を受賞したメンバーが手掛けるリアルな戦場音響を導入したわけです。(このあたりパンフレットにかなり詳しく書いているのでおススメ)

この「当時の映像を現代の技術用いて再構築する」という行為は第一次世界大戦を遠い過去の別世界の出来事ではなく、我々と同じ人間が実際に体験した出来事であるのだと観客に訴えるものになっています。

 

そんな当時の戦場を完全再現した映像なわけですが、中でも目を惹かれるのは彼らの「笑顔」だと思います。それは戦場は=無機質というイメージのせいで見逃しがちな人間性の象徴だといえます。確かに戦場は非人間的行為であることは間違いありません。長い時間と戦場という場所が彼らを狂わせ、最終的には非人間的に変貌させたのは間違いありません。

しかしちょっと前までサッカーをしたり、友人とジョークで笑い合ったりしていた若者たちが戦場で全てを忘れることは出来たでしょうか?人間性をそんな簡単に捨てられたのでしょうか?

これまで語られなかった非人間的戦場での人の営み。それを決して戦争を肯定するものとして描くのではなく、確かにそこにあった事実として描写する。そこにこそ、「戦争をリアルに描く」という行為の真髄があると私は思います。

 

第一次世界大戦を限りなくそのまま現実に呼び出した作品、新たな映画体験、映画の力を見せつけられた作品、ピータージャクソン監督ベストの傑作、お見事です。