劇場からの失踪

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『キングスマン/ファーストエージェント』戦争とキングマンの相性の悪さ 劇場映画批評第28回

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題名:『キングスマン/ファーストエージェント』
製作国:アメリカ
監督:マシュー・ヴォーン監督
公開年:2021年

 

目的

 

あらすじ

世界大戦を止めろ!超過激なファースト・ミッション始動!! 表の顔は、高貴なる英国紳士。裏の顔は、世界最強のスパイ組織“キングスマン“。国家に属さないこの秘密結社の最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった…! 《STORY》 ──1914年。世界大戦を密かに操る謎の狂団に、英国貴族のオックスフォード公と息子コンラッドが立ち向かう。 人類破滅へのタイムリミットが迫る中、彼らは仲間たちと共に戦争を止めることができるのか? 歴史の裏に隠されたキングスマン誕生秘話を描く、超過激スパイ・アクションシリーズ待望の最新作。 最も過激なファースト・ミッションが始まる!

引用元URL:

www.20thcenturystudios.jp

 

 

 

今回語るのはマークミラーとデイヴ・ギボンズによるアメコミ『シークレットサービス』を原作とした大人気シリーズ『キングスマン』のシリーズ第三弾『キングスマン ファーストエージェント』。

シリーズを手掛けているマシュー・ヴォーン監督が続投し、第一次世界大戦の直前の緊迫した情勢下を舞台に、無国籍諜報機関"キングスマン"の誕生秘話を描いている。

『キングスマン』シリーズは"紳士"という言葉をモチーフに、スタイリッシュかつポップに、正義や道徳心を重んじた勧善懲悪を遂行していく正統派スパイムービーでありながらも、やりすぎなグロテスクさと悪趣味なジョークで、過度に刺激快楽を突き詰めた悪趣味さも兼ね備えているのが特徴である。

10年代以降に生まれたスパイシリーズで一番の成功を収めたのも、そういった『007』的なシンプルな善悪の対立構造と、現代の刺激標準にアップデートされたスタイリッシュかつグロテスクな映像表現からくる、悪趣味さと馬鹿馬鹿しさが若い世代の映画ファンに刺さったことが起因するのではないだろうか。自分も過去のシリーズを単純な快楽に従い、建前としてしか出てこない紳士要素や倫理観に”いかがわしさ”を感じ、そこを楽しんできた。

しかし、本作はこれまでの『キングスマン』とはかなりテイストが違っていて、その”いかがわしさ”を楽しめないものになっていた。

なので、私は賛否で言えば、である。否の一番の原因は、反戦映画としてシリアスさと従来の『キングスマン』の悪趣味さ、馬鹿馬鹿しさが全くかみ合ってないことにあると思う。

 

 

戦争とキングマンの相性の悪さ

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まず本作と過去のシリーズには根本的な違いの一つとして時代背景の違いがある。過去二作では現代を舞台にしているのに対し、本作は20世紀初頭の第一次世界大戦直前を舞台にしている。

そのため、本作は過去作にあったポップさが失われている。過去作では、現代劇だからこその画面の色鮮やかさやキングスマンの魅力の一つであった、斬新かつクレイジーなスパイ道具の数々が、ポップさを引き出しており、そういったものが過去の『007』や『ミッションインポッシブル』や『コードーネーム:UNCLE』といった作品との差別化となっていたはずが、本作には一切出てこないのだ。

 

話は逸れるが、正直そういった『キングスマン』らしさが一切出てこないことで、キングスマンの誕生秘話の癖に全然キングスマンの面影がないことも減点ポイント。『Xmen ファーストエージェント』ではその辺は上手い事やっていたのに。

 

 

話を戻す。本作がもし、これまでのテイストを捨てて、反戦映画としてシリアステイストを推し進めるのであれば、それはそれで良いと思う。現にそういった意図は要所に見られる。

例えば、コンラッドというキャラクターとその彼の末路である。明らかにサム・メンデス監督作『1917』のような塹壕戦の描写と、そこから逆算されたかのようにキャスティングされたジョージ・マッケイ似のハリス・ディキンソンの配役に、『1917』のような反戦映画として本作を作ろうという意図が見えてくる。(※『1917』より前に撮影されたらしいので偶然の一致だとこのブログを公開した後に知った)特に第一次世界大戦時には、多くの若者が英雄願望を持って戦争に参加していた事実があり、コンラッドはその事実に基づいて生まれたキャラなのだ。だからこそ、彼の死は戦争の悲惨さを描くばかりではなく、オーランド(レイフ・ファインズ)という父がいることで、若者が死んで、年寄りばかりが生きてしまった戦争のリアルがあったと思う。

だが、そういった反戦映画としての一面を持ちながらも、この映画は英雄願望を持って戦場に出ていき、悲しくも味方によって殺されてしまったコンラッドを"英雄"として持ち上げるという最低なことをしている。反戦映画であれば、戦争を知らない世代にとって「戦争で英雄は生まれない」というメッセージこそが、何よりも悲劇を繰り返させないことに繋がるはずなのに、この映画はしない。

これまでもマシュー・ヴォーンは『キングスマン』で、主要人物をいきなり殺して、観客にショックを与えて、かつ主人公のクライマックスへの動機付けにすることはよくある。別にそれはストーリーテリングとして凡庸ではあるが、悪いわけではない。だが、今回に関しては息子の戦死を、ただのショック要素又は動機付けとして扱うのは、流石にアウトではないだろうか。そしてそこから立ち直るのが、身近で支えてくれる女性のというのも恋愛感情みたいなのもどうかと思う。



また”悪の組織”によって戦争が引き起こされていた、という陰謀論を持ち込んでいるのが、本当にひどい。

リアリティを担保して反戦するなら、絶対に「戦争の裏に戦争を引き起こそうとした悪の結社」なんてものを出すべきではないと思う。一気にリアリティが下がるだけでなく、昨今のQアノンなどの事件がある中で、戦争は一部の悪意ある少数によって引き起こされたという展開は、あまりに浅はかなストーリーテリングだろう。

反戦映画としてシリアスさと従来の『キングスマン』の悪趣味さ、馬鹿馬鹿しさが全く噛み合っていないことがここに如実に表れていると思う。

 

諸要素が単純につまらない

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本作は上述したように、どっちつかずな問題点があると思っているのだが、それ以上にストーリーがあまりに古臭くてつまらないという根本的な問題を抱えていると思う。これは多分前二作がジェーン・ゴールドマンとマシューヴォーンの脚本だったのに対し、今回はカール・ガイダシェク脚本だったせいなのだろうか。

 

古臭くてつまらない部分を列挙すると、

・まず悪党のボスが実は知り合いという展開をラストに持ってくること

 →在り来たりな展開過ぎてドン引きしてしまった。なんならモートン以外なら誰でもいいと思ってた

・悪党たちの秘密基地

 →場所が確実に特定できる要素(ヤギ)がいる、昇降機壊して、空爆すれば終わりの立地が馬鹿

・ポリーワトキンズ

 →結局恋愛感情でオーランドを支えようとしていた的な展開が古臭くて萎える

・第一次世界大戦

 →アメリカ参戦=戦争終結の展開の呆気なさ

・「マナーが人を作る」

 →敵がいうんかい!

こんな感じで根本的な脚本が本当に杜撰さであると思う。

 

 

最後に

マシューヴォーンは「Xmen ファーストエージェント」という史実にフィクションを絡めた作品を作っており、自分は結構好きだったので期待していたのだが、こんな体たらくとは思いもしなかった。

そもそも勧善懲悪かつ過激なバイオレンスなキングスマンがそもそも危ういバランスで出来てたのに、そこに戦争を絡めたらこんなのになってしまうのは明白だったのかもしれない。

ラスプーチンやレーニン、ヒトラーまで組織の一員にしてしまう辺りは、「Xmen ファーストエージェント」の際に、JFK暗殺なんかも絡めた史実に基づく三部作構想をこっちで実現する気なんだろうなと感じた。

 

公開延期で約2年待たされて、このざまとは。