劇場からの失踪

映画をこよなく愛するArch(Ludovika)による映画批評 Twitterもあるよ @Arch_Stanton23

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豹変毒母の異常な愛情『RUN/ラン』劇場映画批評23回

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 彼女にとって世界は母親が引いた境界線の内側だけだった

それでもよかった。全てが故意だと知らなければ…

世界は牢獄に代わり、唯一開けていた未来は閉ざされる

彼女はその母の異常な愛情を抜け出すため、不自由な足で駆けだす。

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題名:『RUN/ラン』
製作国:アメリカ
監督:アニーシュ・チャガンティ監督
製作年:2021年

 

誰もが"世界は広し"というが、結局はどこか内側と外側という概念で世界の大きさを決めている。隣の国、県、市、駅、家。境界の向こう側は自分の世界だと思えるだろうか。生まれつきの障害を持つ彼女にとってそれは誰よりも狭まかった。それでもと一歩踏み出し、新しい世界を見に行こうとする彼女。

そんな窮屈な世界が故意に狭められていたとしたのなら。これまで自分の包んでいた優しさや愛が本当は自分を窒息させる猛毒だとしたのなら。貴方をはどうしますか。

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『Search/サーチ』の監督アニーシュ・チャガンティが前作の製作陣と共に放つサイコ・スリラー。

本作はサラ・ポールマンとキーラ・アレン、二人の女優の一騎打ちといえる作品になっています。サラ・ポールマンといえば「美人だけど怖い」女優界隈で、ロザムント・パイクに引けを取らない顔と演技をしている女優です。自分としては『ミスターガラス』が怖すぎる。

キーラ・アレンは今回初めて劇場で観ましたが、見事な体の張りっぷりです。特に変顔の躊躇いのなさも素晴らしい。全くサラ・ポールマンに負けてません。

では早速、本作について語っていきたいと思います。

 

目次

 

 

ストーリー

郊外の一軒家で暮らすクロエは、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。しかし常に前向きで好奇心旺盛な彼女は、地元の大学進学を望み自立しようとしていた。そんなある日、クロエは自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアンに不信感を抱き始める。ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑のカプセル。クロエの懸命の調査により、それは決して人間が服用してはならない薬だった。なぜ最愛の娘に嘘をつき、危険な薬を飲ませるのか。そこには恐ろしい真実が隠されていた。ついにクロエは母親から逃れようと脱出を試みるが……。

引用元URL:映画『RUN/ラン』公式サイト 6月18日(金) TOHOシネマズ 日本橋他全国ロードショー

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日常が裏返る恐怖

本作は典型的な人の偏執的な恐怖を描いた作品になっています。ヒッチコック的ともいえるし、『ミザリー』や『シャイニング』ような作品ジャンルに括られる作品ともいえます。

その中でも本作の特徴、恐怖の根源といえるのが二つ。一つは"日常が裏返る恐怖"です。足が不自由で糖尿病などの疾患持ち、母親の助けなしには生きることができないクロエは、どこかその束縛された現状が天性だと受け入れています。そんな閉鎖的な環境はやはり恐ろしげはありますが、それだけではやはりただそこにある世界というだけ、特に生まれつきそうである彼女にとっては特にそうです。しかしその閉塞的な世界が”故意に生み出された環境”だと知り、隔絶された世界が当たり前のそこに当然あるものから、恐ろしく窒息しそうな閉鎖空間と変貌する、そこに何よりも恐怖があると思います。与えられていた薬、逆に与えられなかったスマホ、さらに二階にある部屋ですら… それら全てが悪意に満ちたものに変貌していく。そんな"前提から覆ること"がこの映画の恐怖の根源になっています。

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母から倒錯した愛情

もう一つは「母からの倒錯した愛情」です。

一番の味方である"母"、生活の大半を担い支えている"母"が自分の人生を狂わせていたのなら…

上述した内容にも被る"前提が覆ること"の恐怖でもありますが、この母による倒錯した愛の恐ろしさは、愛情という表層の内側に狂気が秘められていることにあり、本人が自覚していないこと、つまり「良かれと思って」と本気で思っていることにあります。

色々な真相は一応伏せとくとして、どの狂行も彼女の中で愛情によるロジックが出来上がっていて、そこに"得体の知れなさ"が溢れている。

ダイアンは"ある死"を期に、狂人になっていく訳だがどうしてもキャラクターとして薄い、そして設定の突拍子のなさが正直あり、母親の娘離れという題材については踏み込み切れず、シチュエーションホラーとしてのエンタメ作品に収まっている。

 

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総評

前作のような現代的な仕掛けを用いた作品ではないが、インターネットに繋がっていないことに対する現代病的な恐怖を補助線にしていたり、逆手にとった部分はあると感じた。他にも章分けするほどではないが、電心音を用いた演出等も非常に巧いなぁだとか、最後の展開はどうなんだ?と思う部分はあったが、サイコスリラーとしてしっかりとした出来に仕上がっていた。