劇場からの失踪

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『X エックス』sexは若者の特権行為なのか 劇場映画批評第68回

題名:『X エックス』
製作国:アメリカ

監督:タイ・ウェスト監督

脚本:タイ・ウェスト

音楽:タイラー・ベイツ、チェルシー・ウルフ

撮影:エリオット・ロケット

美術:Alex Falkner
公開年:2022年

製作年:2022年

 

目次

 

あらすじ

1979年のテキサス。女優のマキシーンとマネージャーのウェイン、ブロンド女優のボビー・リンと俳優のジャクソン、自主映画監督の学生RJと録音担当のロレインの3組のカップルは、映画撮影のため農場を訪れる。そこではみすぼらしい老人ハワードが彼らを待っており、宿泊場所となる納屋へと案内する。そこでマキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見る老婆と目が合ってしまう。

引用元:

moviewalker.jp

今回紹介するのはA24Filmが送り出す新作ホラームービー『X エックス』である。既に三部作が構想されており、その第一作が本作だ。

第一作がコケたらどうするのか、かなりの自信作と受け取ってよいのか、とハードル高めで劇場に足を運んだが、これが思いのほか面白い。しっかりと続きが気になる作品にもなっていてA24のビジネス戦略は決して間違えてはいないのかもしれない。

そんな最新ホラーについて、早速語っていこう。

※以降ネタバレあり

 

殺されても構わない対象

1979年、ポルノ映画の撮影の為に田舎の小屋へと向かう男女6人組。何も起こらないわけがないし、その事に一切自覚的でない映画通っぽいRJはなんなのか。明らかにホラー映画のロケーションじゃねーか。

というのは置いておいて、本作は悪くない出来の作品になっている。

本作はまさに「セックス」についての映画であり、タイトルの『X』もそのままSEXを意味する。『13日の金曜日』や『死霊のはらわた』のようなスプラッター映画ではそういったセックスのことばかり考えている学生が餌食にされたり、『イット・フォローズ』ではSEXによって"それ"のターゲットを塗り替えられたりとホラー映画では良くSEXが常に描かれてきた。それはホラー映画においてグロテスクな光景を観ることとと他人のSEXを観ることが同様に禁忌的で背徳的な行為だからだろう。同意の上でのSEXは全くもって禁忌ではない。だがどうしてもフリーSEXに勤しむビッチはどこかホラー映画で「殺されても構わない」対象にされる。そういった対象として印象づけるのはもちろん観客に気持ちよく映画を見てもらう為だ。

そういったホラー映画の前提を踏まえてみると、本作はまさにポルノ映画を撮ろうとする彼彼女らを「殺されても構わない対象」として設定する。ただ面白いのは本作にはキリスト教的な価値観が持ち込まれ、その価値観に反するからこそ「禁忌的」とみなし、映画内で「殺されても構わない対象」として位置づけている事だ。印象的なのは三人の若い女性のうち、録音係として参加し「Good girl」とされていたロレインの行動だろう。いわゆるビッチの二人と同様にポルノ映画に出演しようとする行動は、その際にインサートされるクロスのネックレスを外すという彼女の行為が象徴的なようにまさに背徳的な行為とされる。他にも印象的なのはテレビに常に流れる神父による説教だ。その仕掛けは最後に発揮され、本作の描くテーマを補強する訳だが、その説教が空(くう)に響き、誰にも届かない様が何より本作のポジションを表している。

 

sexは若者の特権行為なのか

またSEXという行為について、さらに深く切り込んでいるのが面白いところ。SEXは若者の特権行為のように行う彼彼女らに対してのアンチテーゼとして本作の"キラー"である老夫婦は登場する。もちろん年齢による身体的な限界もそうだが、やはり何より外見の醜さがフューチャーされ、老人はSEXが許されない存在のように描かれる。
その描写が一種のホラー描写にされてしまうことの危うさについては後に触れるが、老いた女性が若さに執着する様をSEXに結びつけて、年不相応な欲望の発露の姿はこれまでに見た事のない切実さを孕む。特に映画史上最高齢のSEXシーンは恐ろしいが、1つの愛の結実としては美しくもある。(そして少し笑えるのは正直なところ)
若いマキシーと老婆パール(多分マキシー役のミア・ゴスが担当)が対比され、マキシーにとっての退けるべき"未来"としてパールが立ち塞がる。同時にパールにとっては懐かしく特別な関係性の存在としてマキシーがいる。この関係は面白い。

他にも79年頃の映像感に合わせた『悪魔のいけにえ』っぽいルックとしつこいマッチカットやクロスカッティング編集によって並置を多用しているところはここでは割愛する。

 

老いに対する恐怖

最後に触れたいのは老いに対する恐怖について。本作にある恐怖は多分「老いることへの恐怖」「老いたものへの恐怖」「単純な襲われる恐怖」がある。これを一緒くたにしては行けない。ただ老いていることへの恐怖をエンタメとして消費することはしてはいけないと感じるし、その事に自覚的であるべきだと思う。同じことにシャマランの『ヴィジット』等にも感じたことがある。あの作品も何に恐怖を感じるのかに、意識的であるべきだ。

余談だが本作は三部作だと最初から知っていたが、まさか『フィアーストリート』と同じ遡る系だったとは。予告は面白そうなので是非見たい。

 

追記

この作品観てて思い出したのは『メタモルフォーゼの縁側』。若さやSEXに固執せずにBL小説に出会えていたなら…とかで冗談で思ってたがあながち的外れでもないかも。彼女に必要だったのは家から飛び出して、外の世界に触れることだったはずだから。