劇場からの失踪

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『ワイルドスピード/ファイヤーブースト』劇場映画批評130回 まるでインフィニティウォー

題名:『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』
製作国:アメリカ

監督:ルイ・ルテリエ監督

脚本:ジャスティン・リン ダン・マゾー

音楽:ブライアン・タイラー

撮影:スティーブン・F・ウィンドン

美術:ヤン・ロールフス
公開年:2023年

製作年:2023年

 

 

目次

 

あらすじ

パートナーのレティと息子ブライアンと3人で静かに暮らしていたドミニク。しかし、そんな彼の前に、かつてブラジルで倒した麻薬王レイエスの息子ダンテが現れる。家族も未来も奪われたダンテは、12年もの間、復讐の炎を燃やし続けていたのだ。ダンテの陰謀により、ドミニクと仲間たち“ファミリー”の仲は引き裂かれ、散り散りになってしまう。さらにダンテは、ドミニクからすべてを奪うため、彼の愛するものへと矛先を向ける。

引用元:

eiga.com

※以降ネタバレあり

 

こいつはファミリーには入らないぞ(多分)

大人気シリーズ第十作目。

エンタメ作品において、どれくらいファンに寄り添うのかはひとつの課題だろう。ファンが求めてるものをそのまま提示することは、期待通りとも言えるし、同時に想像の域を出ない。しかしその想像の域を超えるようとすると、期待外れだとする者と、期待通りだとする者が生まれる。本来ならそこにファンの存在なんて透けて見えている時点で、ジレンマに陥っているのは仕方がないことなのだが、これは簡単には解決しない問題だ。

そんなジレンマに対して、本作はとことんファンの期待するものを提示する手段を取る。というよりも本シリーズは露悪的になりきれない陽性の王道エンタメ作品としての性質が持つが故に、結局ファンの期待を超える「最悪」は描かれないし、ファンの期待の範疇で「最高」を提供する。しかしそのことに徹底している本作は、その範疇において見事に三部作の「序章」としての役割を果たしていたと思う。

そう思うのは、しっかり"ファミリーの分散"=ファミリーの敗北を描けていたこと。そして何よりも「誰でも一度殴りあったら仲間」の法則を打ち破ってみせたからだ。今回の敵はこれまでに"ファミリー"になった敵とは違って、明確にドミニク当人に恨みを持っている。デッカード・ショウも同じく当人に対して復讐を行っていたが、本作で描かれていたダンテの猟奇性や、恨みの深さがその可能性を消している。多分その「こいつはファミリーには入らないぞ」という印象付けこそが、本作でクリアしなければいけないことの一つだろう。その点はしっかりできていた。

 

過去との闘いに敗北する

また本作ではファミリーが結局最後まで分裂したままである。まるで『インフィニティウォー』なのだが、正直無茶苦茶だ。イタリアで合流しなかった意味もよく分からないし、レティとサイファーが南極に行ったことについては、ミス・ノーバディの意図がよく分からない。サイファーなら逃げられる=サイファーのもとに送る?ということなの?それで南極って馬鹿なの?このファミリーの分散は『インフィニティウォー』同様に"アッセンブル"への期待を高めることに繋がっているし、そこを推しげなく踏襲するのは素直に関心する。

ただ、『インフィニティウォー』と違って、このシリーズには死に信憑性が全くない為、どうやってここから挽回するんだよという感じが少ない。
ジェイコブもローマン達もこれで死んでた方が驚くといのが、造り手としても大変なところだろう。


本作は、ワイルドスピードシリーズがシリーズで一貫してやっている「過去との闘い」に遂に負ける話でもある。つまり本作は『MEGAMAX』で殺したラスボスの息子が敵であり、そういった過去の因縁に勝ってきたのがこれまで分かっただったのに、本作で始めて敗北したのだ。
その「過去との闘い」というテーマは例えば、ローマ市内でのボール爆弾の下りが、『MEGAMAX』の金庫を思い出させたり、リオでの件の橋での戦闘があったりと、敵の筋書き通りに「過去」と戦うことになる
そして個人的には最後のダムで、元トラック泥棒であるドミニクの前に、『MAX』で強盗として襲撃していたタンク車が彼を殺そうと登場するのが、意趣返しとして機能していて、「過去との闘い」の文脈を強化する。

彼らの肉弾戦に興味はないのだ。


で、ここまでがわりかし評価している部分。

ここからは否定部分を書く。まず分離して同時進行するファミリーの話で、ローマン達の部分が本当に酷い。突発的にアクションとして見応えのないアクションが連続して起こるし、ハンがなんでも口に運ぶつまみ具合野郎になってるし、デッカードも欠片しか出ない。詐欺に近いだろ。
ジェイコブのシーンは面白かったが、どうしても4つに分割してしまったせいで話が全く進まない、各自のアクションを描くために話が進まない。

私は今でも彼らは「ドライブテクニックに秀でたチーム」だと信じているので、彼らの肉弾戦に興味はないのだ。
相変わらずドミニクの言葉には中身が詰まってないし、血縁でしか相関図を広げられないし、これまでのシリーズで実はあまりなかった"父が子を導く"という家父長制が増長されていることも頂けない。
自分はドミニクの息子は実は全然車が好きじゃないとかの方が、親子の関係を描けると思うので勿体ないと感じた。


そして最後について、ジゼルは予想通りだが、あんなにもAIイラストみたいな意味不明な感じで出るとは思わなかった。サイファーの潜水艦から出てくるニコニコで出てくるジゼル。下半身が列車になってる巨乳美少女のAIイラスト並に違和感がある。
ただ、このおかげでハンとジゼルカップルの話が描けるのは嬉しいことだ。
問題はホブスだろう。役者同士の諍いは結局プロレスって事ですか。しょうもないッスよ。

総評としては好きな作品、というか多分後の作品込で好きになれる作品だと思う。