劇場からの失踪

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『エスター ファーストキル』劇場映画批評128回 "エスター"を再び描くための最適解

題名:『エスター ファーストキル』
製作国:アメリカ

監督:ウィリアム・ブレント・ベル監督

脚本:デビッド・コッゲシャル

音楽:ブレット・デター

撮影:カリム・ハッセン

美術:マシュー・デイビス
公開年:2023年

製作年:2022年

 

 

目次

 

 

あらすじ

裕福な一家、オルブライト家の一人娘で6歳のエスターが行方不明になってから4年の月日が流れた。ある日、エスターが見つかったという朗報が警察から届けられる。父、母、兄は数年振りの再会という奇跡にこの上ない喜びを感じ、10歳に成長したエスターを迎え入れる。再び4人そろって幸せな生活を送ることができる。家族の誰もがそう思っていたが、4年ぶりに戻ってきたエスターは何かが変わってしまっていた。

引用元:

eiga.com

※以降ネタバレあり

 

ホラーシリーズ2作品目の呪い

オリジナリティーあるギミックとアイコニックなホラーキャラクターを作り出したホラーシリーズ2作目の宿命として、「既にネタばらししたギミックを再度使わなければならない」と「ストーリーの為にホラーアイコンを設定や殺し方を盛っていかなければならない(ファンが解釈違いを起こす危険性)」というのがアバウトだが考えられる。

最近だと『真 事故物件2』がその点で最低の出来だったし、旧作だが『ハロウィン2』で判明する妹設定は最大の失敗だと思っているし、ちょっと違うかもしれないが、『ドントブリーズ2』や『クワイエットプレイス』等の作品も賛否両論だったと記憶している。シリーズの知名度故にホラーアイコンの企画は経ちやすいのだろうが、その反面成功しづらい宿命を抱えているのが、ホラーシリーズ2作品目なのだ。

それらを踏まえると本作は驚くほどによく出来ている。観客が前作と同じことをしてくることに飽きていることを重々承知した上で、話を展開していることが節々から伝わってきて、そのうえで観客に"エスター"を再び描くに値すると証明しようという話の切り込み方の工夫が感じられる。

まず本作が前作と決定的に違うのは、エスターことリーナの視点に立った物語であり、早々に彼女の病気と抱える狂気を明かしているところ。特に彼女の異常さよりも狡猾さを全面に出てた病院からの逃亡劇は長回しの映像もさることながら、前作から一貫した賢さを感じさせるものだった。

早々に前作分の情報開示した上で、じゃあ何がまず描かれるのかというと、頑張って子供を演じて家族に取り入ろうと努力する姿だ。この些細なシーンがかなり好きで、彼女視点で見ると一種の潜入サスペンス的になっているのが良かった。(トイレで一気に酒を飲むシーンとか最高)

 

 

エスターとは「親の誤った喪失の埋め方を咎める」存在
ただそれは、そのあとの肝心の驚愕の母と兄との共犯関係の展開の為の振りでしかない。そう、この家族側が最初からエスターが偽物だと分かっていて、かつ、夫の為にエスターであり続けようとさせ、互いに首根っこを掴んだ共犯関係になるという展開こそが、本作の最も衝撃的な部分なのだ。
この衝撃展開の見事さは二つの面で語れると思う。
一つはホラーアイコンを主人公に据える上で、この「潜入した家族もろくでもない人殺し」だというのは「人殺しvs人殺し」という構図を生み出し、なんの気兼ねもない距離感でストーリーを楽しむことを可能にしているということ。クズ同士、人殺し同士勝手に殺しあってくれ!ということだ。

二つ目は、前作における「亡くなった子供の喪失を別の子供で埋めては行けない」というテーマ性、つまりエスターというキャラクターが内在させる「親の誤った喪失の埋め方を咎める」の存在としての機能をより強調させることになっている点だろう。

前作ではそのテーマ性を流産した母親の喪失と決別を通して描いていたのだが、本作でよりハッキリとエスターは「亡くなった子供の代わり」にされるのだ。それも今回は心の穴を埋めるためではなく、明確な犯罪行為の隠蔽としてだ。その違いは、観客に明確にその行為の残虐性を訴えることになっているし、エスターは「被害者」にも見えてくる。
大人が子供を、都合よく穴埋めとして扱う。ある意味それはペットのそれと何が違うのか。『ラム』を見て感じた自業自得の業の部分とも繋がる、大人から子供への残酷な視座の話。
その部分が今回強調されていたのはとても良かった。

 

頑張ってた撮影

他にも頑張ったであろう撮影の部分を評価したい。一作目では子供だったイザベル・ファーマンを再起用した本作は、子供のダブルやCG、膝立ちで撮っただろうバストショットを駆使して、一作目以前のエスターを構築していた。キャラクターはカットのツギハギで構成され、我々はそれらを脳内で補完して認識しているに過ぎないことを強く感じさせれた体験で非常に興味深かった。また本当の意味で、大人が子供を演じることで、エスターをただの狂人として描くのではなく、社会の不寛容さが生み出したただ大人として扱われたかっただけの悲しき化け物という複雑なキャラクター造形を表現することが出来たと思う。

不満なのはファーストキルが別にそこまで大きな意味を持つタイトルじゃないってこと。Orphansになってからは誰も殺してないし、あの家族が人生で始めての殺人って訳でもないだろうし、エスターになってから初めての殺しってことにしても、特別な意味合いは感じない。