劇場で観た作品を"ネタバレなし、短め"にまるで3流探偵の迷推理のような戯言を書き連ねる劇場批評回「劇場から失踪」第4回
―――――――――――――――――――
「え、浜辺美波可愛いな...」
と、葉村譲とシンクロするように心の声が終始漏れながら約120分。
2人のホームズと1人のワトソンが繰り広げるグロテスクコメディー、ゾンビ×推理のジャンルMIXムービーここに誕生。
―――――――――――――――――――
目次
今回「劇場からの失踪」第4回で批評するは、浜辺美波主演、演技派若手を大量投入し、原作も今村昌弘長編1本目と若さ溢れるフレッシュさで送られるゾンビ×探偵ムービー、木村ひさし監督作品「屍人荘の殺人」です。
ミステリー小説をあまり嗜まず、邦画もあまり観ない原作未読の自分が何故この作品を観に行ったか。それは「浜辺美波」の大ファンだからです。流行りの俳優を多用した大衆的邦画なんて嫌いだったのに...やっぱり可愛いは正義、正義の前には誰もが屈服するしかないんですね、思い知らされました。
しかしながら、今作は"浜辺美波"をただ愛でるだけの作品になっていないです。浜辺美波等若手の演技力とコメディー色を多分に採り入れた構成で新感覚ミステリー映画として十分楽しめる作品になっていました。
物語は深紅大学の自称ホームズとワトソンの紹介から始まります。
依頼されるというより、自ら頭を突っ込んでいく中村倫也演じるホームズこと明智恭介。ホームズか明智かどっちかにして。
それに振り回される神木隆之介演じるワトソンこと葉村譲。名前からひ弱な脇役といった感じ。小説はやはりビジュアルがないため、名前も重要な印象操作のひとつなのでしょう。
彼らはある事件の捜査中、浜辺美波演じるもう1人のホームズである剣崎比留子にある依頼の捜査協力を頼まれます。それは山奥の別荘でサークルが開催する合宿に脅迫状が届けられたのでその犯人を合宿に参加し、突き止めて欲しいというもの。
今、2人のホームズと1人のワトソンによる推理劇が幕を開ける。といった感じ。
ゾンビ×ミステリー小説のジャンルMIX
ミステリー好きには馴染み深い、もう飽き飽きしてるまであるだろう別荘地での密室殺人です。
しかし、今作には他に例をみない状況設定があります。
まさかまさかの"ゾンビハザード"が発生するのです。
今作でのゾンビはゾンビ映画におけるただの命を脅かす敵ではありません。
今作のゾンビは犯人であり、凶器であり、アリバイ、密室のトリックとして機能するのです。
原作未読でいった自分には、ゾンビというのは予想外の展開で驚いたし、かつ密室を作り出す状況であるだけではないのが良かった。
このゾンビ×探偵の状況で想起される1つの問答。
「この事件を推理し、そして解決する必要があるのか」
死が目の前まで迫り、犯人が分かった所で皆殺しになるだろう状況に事件解決が意味を成すのか。ということ。
その答えは思うに"それが探偵"である、という変えられない性に起因するのだと思います。
探偵は常に事件が起こった後にしか、動き始められない受動的な存在です。死者がどんな人間であれ、その死んだ者と残された者のため、そしてその知的好奇心のために探偵は如何なる状況でも真実を導き出さなければならないのです。
そして今回のケースで言えば、それが犯人の願いであったということ。犯人が自らの罪を暴き出して欲しいという贖罪に近い感情があれば、それは真実が詳らかになる必然性となりえるでしょう。
最後に、そして原作との乖離について
意外に今作は批判的な意見が多いようです。その理由が"原作との乖離"だそうです。原作は今作ほどのコメディ色が強い作品では無いとの事。原作を読んでから行けば感じ方は変わっていたかもしれません。
ですが、自分の信条は
"原作小説を読んでから映画を観るのは良くない"
どちらの媒体が優れているか、ではなくそれぞれの媒体の特徴的に小説から映画に行くのは良くないと思うのです。
小説の方が意識的に読者に取り込まれる情報量が多く、読者は登場人物を脳内にイメージとして思い浮かべます。それに対して映画は小説の要素を抜粋し、映像として型にはめてしまいます。
そして映画に再現性を求めるのは無作法です。
本質的に作品を貶めるような作品で無ければ、その違いを楽しむべきです。
映画から小説という反対はアリだと思います。映画で語られなかった要素を小説で補完するのはどちらの媒体にもプラスに働くように思います。
なので、小説と映画は全くの別物として観るのが、誰にとっても幸せであると思います。
今作は原作未読の私にとって浜辺美波を過剰摂取出来る素晴らしい作品でありながら、新鮮なその状況設定に驚きを感じさせてくれた良い作品でした。
是非原作とその続編を読みたいと思いました。