劇場からの失踪

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『ナワリヌイ』悪人が勝つのは、ひとえに善人が行動を起こさないからだ 劇場映画批評第58回

なぜ私を殺そうと?」ロシア反体制派の活動家が政府に問う、ドキュメンタリー予告編 - 映画ナタリー題名:『ナワリヌイ』
製作国:アメリカ

監督:ダニエル・ロアー監督


公開年:2022年

製作年:2022年

 

今回紹介するのは、"プーチンが最も恐れた男"として知られるロシアの反体制派の象徴アレクセイ・ナワリヌイを追ったドキュメンタリー『ナワリヌイ』である。本作はウクライナ侵攻が行われている現状を鑑みて、日本で緊急公開された作品ということもあり、とてつもなく時事性の高い作品になっている。我々が日々のニュースに感じているロシアに対するのイメージを補強するような、ロシアの"歪み"を本作はナワリヌイの視点を通して描いている。では早速語っていく。今回も短評なのであしからず。

 

目次

あらすじ

ロシア反体制派のカリスマ、アレクセイ・ナワリヌイを追ったドキュメンタリー。プーチン政権への批判で国内外から注目を集め、若年層を中心とする反体制派から支持を集める政治活動家ナワリヌイ。政権にとって最大の敵と見なされた彼は不当な逮捕を繰り返され、巨大な力に追い詰められていく。そして2020年8月、ナワリヌイは移動中の飛行機内で何者かに毒物を盛られ、昏睡状態に陥る。ベルリンの病院に避難し奇跡的に一命を取り留めた彼は、自ら調査チームを結成して真相究明に乗り出す。

 

引用元:

eiga.com

※以降ネタバレあり

 

ロシアの実態

現実は余裕でフィクションを追い抜いてくる、そこにドキュメンタリーの面白さがある。

そして本作においては時事性が加わることで、より強固な現実として描かれる。
主な内容は、アレクセイ・ナリヌワイが2020年に飛行機内にて毒殺未遂された事件の真相をナリヌワイ陣営視点で追いかける中で、如何にナリヌワイがクレムリン(ロシア政府)に脅威とされてきたのか、また愚かで恐ろしいロシアの実態を暴いていく内容となっていく。
こういう政治的な作品は、やはり造り手の思想がバイアスとしてかかっていることを前提にしなければならない。

本作においては「ナリヌワイが本当に毒殺されたのか?」という被害妄想疑惑が最初誰もが頭に浮かぶはずだ。まさかロシアという大国が一人の人間を敵視するはずがないと。
しかし徐々に分かるのは、あまりに非現実的な出来事(事件)がまさにロシアの実態そのものであり、ロシアが用いる「まさかそんなことが現実なはずがない」という常識的な思考の隙をついたような情報操作の手段に他ならないということ。そして逆説的に判明するのは、あまりに非現実的で現代に似つかわしくないことの全てが、帝政ロシア、プーチンの独裁国家と成り果てたからこそ"現実"に起こりうるのだという事実だ。


また本作において印象的な「モスクワ4」という言葉も信じられないロシアの今を照らし出す。今やロシアという国はその国土の大きさと態度の大きさでぶくぶくに膨れ上がった形骸化した何かでしかなく、その中身は道徳的にも一つの組織としても腐食が進み、虚勢の国になったのだと私は感じた。

 

最後に

本作にナンバリングはない。しかし明確に現実という地平に"続編"が約束されている。ロシアに帰国し、投獄された男が果たして本当にこのまま20年の服役するのか。ウクライナ侵攻があり、ロシアが何より注目される今、全てを覆すなら今ではないか。
英雄の帰還と、何より国民への「諦めるな」という言葉に呼応し行動が起こされることを期待したい。

「悪人が勝つのは、ひとえに善人が行動を起こさないからだ。」

ナワリヌイの言葉は重いものだった。