劇場からの失踪-映画批評ブログ

映画をこよなく愛するArchによる映画批評

『ハミングバードプロジェクト』-狂気の行進,実話映画の難しさ-

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0.017秒   これは当時のウォール・ストリートの株取引で使われていた回線速度。
0.016秒   これはハミングバードの羽ばたきの時間。そして彼らが目指した世界最速の通信速度。

僅かその差は0.001秒----

人の認識の及ばないこの差に人生の全てをかけた男たちのアメリカ金融界に衝撃を与えた実話に基づく物語。

 

 あらすじ 


リーマンショック以降のウォールストリートは誰よりも早く取引したものが勝つ「高頻度取引」が台頭していた。
0.001秒だけでも早いだけで巨万の富を得ることが出来る。

ヴィンセントと従兄のアントンはカンザス-ニューヨーク間1600kmを最短である直線の光通信で結び、他のトレーダーよりも0.001秒早い株取引をする計画をたてる。

このイカれた計画は想像以上の難易度だった。何があろうと直線だ。買い取らなきゃいけない土地の数は1万。川があろうと沼があろうと、そしてアパラチア山脈が眼前にあろうとも地下に直径10cmのパイプを通すためにただ直線に掘り続ける。
しかし、それだけが障害ではない。

このプロジェクトを聞きつけた元々務めていた金融会社の上司の妨害工作が襲う。
まだまだそれだけじゃない。

更には病魔までもが彼を襲う。余命を宣告されるまでに進行した胃癌だ。

数多の困難を前に、文字通り"命"懸けのプロジェクトに二人は取り憑かれるようにのめり込んでいく彼らを待つ結末は・・
(予め書いておくと金融業界の知識ゼロなため、専門的なことはさっぱり。なのでそっち方面はあまり触れません)

 

 

主演ヴィンセントは我らが童貞代表ジェシー・アイゼンバーグ。数多の草食系ナヨナヨボーイを演じ、共感を呼ぶ演技で我々の心を掴んできた彼です。

「ソーシャルネットワーク」より彼に心酔してる自分には今月1番の注目作でした。アドアストラ等があるなかね、確実にマイノリティ。


今作ではインテリな金融マン、ヴィンセント。PCを前にするシーンや言葉でまくし立てるシーンは「あれ?ソーシャルネットワークの続編か?」って思ってしまいました。
彼の狂気を感じるほどに突き進んでいく姿は「ジャスティスリーグ」のレックスルーサーを感じさせました。こっち方面の演技もいい。

 知的な天才派オタク、ハゲ頭がチャーミングなアントンを演じるはアレクサンダー・スカルスガルド。初めて見た役者さんですが、ジェシーアイゼンバーグに負けない演技力で素晴らしかった。映画にコミカルな要素をもたらしてくれてます。

 

前述したとおり、金融業界の知識なし(ジェシーアイゼンバーグ目当て)で見に行った訳なんですが、楽しめました。

デジタル化が進むなか、アナログな有線で繋ぐという発想にも驚かされました。

原作はノンフィクション作家マイケル・ルイス。「マネーボール」や「世紀の空売り」(マネーショート)の原作者でもあり、どちらも映画化されています。どちらも良作です。

 

プロジェクトの産んだ狂気

主題にあるのは「夢を追いかける男」の狂気と挫折。病気と知らされながらも治療を行わずに仕事をして段々とやつれていく姿は狂気が深まっていく様子を表していました。

 

考えてもみてください。一会社員であった男が多くの掘削作業員を雇い、プロジェクトチームを組織。支援者を見つけ、政府に国立公園での作業の許可まで取る。この行動力は本当に凄まじい。このやり遂げることへの執着、つまりは金目的な訳ですが、個人レベルでそこまで出来るものなのか素直に感心しましたね。

 

主人公のみならず、相棒のアントンや元上司までどんどん行動がエスカレートし、狂気じみて来るわけですが、最も狂気を感じさせるシーンはチェーンソーを持って忌まわしき鉄塔へと向かっている姿。病気のせいもあり、顔には珠の汗が流れ、ぶつぶつと呪詛をまき散らしながら鉄塔を睨みつけるシーンは一番の見せ場であったでしょう。ジェシーファン的には滅茶苦茶満足なカットでしたね。

実話作品のオチ

この作品は最後、プロジェクト失敗という形で終わります。そこには実話の苦みが存在します。

最後まで諦めずにやろうとも報われない。どんでん返しは起こらない。結局は失敗に終わる。
多くの実話作品と同様に教訓なんてものはこの作品にはありません。

アントンは農場で横になるヴィンセントに"過程が大事だろ"と呟きます。
しかし、この映画を観た者にそんな言葉は刺さりません。

ヴィンセントはこの冒険の果てに全てを失ったのです。アントンの言葉は時に人を救う言葉でヴィンセントは最後救われたのかもしれません。しかし、観客には伝わってこない。何故なら、彼は過程において何も得ることが出来ていないからです
あとは病気で死ぬまでの時間を潰すだけ彼の最後の姿に「まぁなんだかんだやって良かったね」とは声かけられません。

この映画は全てを掛けた男が全てを失ったという事実をただ淡々と描いたのです。そういった映画が=つまらないではないです。
しかし、映画の作りが単調かつオチの微妙さのせいで、観客に最後に残る感情であろう悲しみや同情が映画への好感に繋がらない。つまらないと感じさせてしまうものになっていたと思います。
実話映画のオチの付け方の難しさを感じました。
農家に謝罪しにいくのはなんか違う気がするんすよね...

(「マネーショート」は演出含めてそこが上手かった...)

 

総評

総評としては「面白い題材でいい実話映画ではあるが、オチを観客に納得させられてない映画」って感じですかね。
とても好きな空気感の映画ながらも観た後にモヤモヤが残ってしまったんですよね。

(文章書いてて頭の中で整理してたらだんだん微妙に感じてきた)
でもジェシーファンには是非とも観て欲しい作品ですね