題名:『ドリームプラン』
製作国:アメリカ
監督: ライナルド・マルクス・グリーン監督
公開年:2022年
製作年:2021年
目次
あらすじ
リチャードは姉妹が生まれる前にTVで優勝したテニスプレーヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿を見て、「娘を最高のテニスプレイヤーにしよう!」と決意。テニスの教育法を独学で研究し、「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を作成。誰もが驚く常識破りの“ドリームプラン”を実行し続けた。お金もコネもない劣悪な環境下で、途方もない苦難、周りからの批判を受けながらも、そのプランでいかにして2人の娘が世界の頂点へ上りつめるのか―― ⁉ どんなに無謀だと言われても揺るがぬ信念を持ち、娘たちの可能性に人生のすべてを捧げるリチャード。不可能を可能にしていくその姿に心を揺さぶられる、一生忘れられない感動作。
引用元:
今回紹介するのはウィル・スミスが主演製作を担当し、テニスの世界チャンピオンを二人も輩出した実在の家族を描いた『ドリームプラン』だ。予告を見た時点では、娘の将来を親が良かれと思いつつも、本人の意思を抜きにして決めてしまう親にかなりの違和感を感じていた。しかし本作を見てみると印象はがらりと変わる。"ドリームプラン"を生まれた背景には、彼らが生まれた環境の要請があり、「親が子供の守ること」の本当の意味と責任がそこに表れていた。親がどこまで子供の人生に関与すべきか、また結果論的な映画の視点については賛否が分かれると思うが、自分は賛である。ではそれらについて語っていこうと思う。
ドリームプランが必要な環境
「ドリームプラン」とは、娘のビーナスとセリーナが生まれる前に父リチャードが計画した76ページにも渡る計画書のことを指す。内容は二人の娘をプロのテニスプレイヤーに育て上げ、チャンピオンにするというもの。正直にいって親が子供の将来を生まれる前から決めるという考えは、生まれてくる子供が親を無条件で信じ愛さざる負えない立場で抗えないことを踏まえると、虫唾が走るものだと言わざる負えない。だがしかし、親子の関係が親子の数だけあるように、親が子供の将来にある程度の強制力を掛ける必要な状況があるのも事実だ。本作は正にそれに該当している。
ウィリアムズ家が住んでいたのは、カリフォニア州コンプトン。『ストレイトアウタコンプトン』なんかを思い出してくれると分かるだろうが、いわゆる貧民層が集まるゲットーであり、特に黒人一家にとっては差別的な白人警官の脅威など、苛烈な環境だといえる。そこには常にドラッグや犯罪組織の誘惑があり、抗争に巻き込まれて若いうちに死んでしまうなどは日常茶飯事である。本作においてもそんな悪辣な環境はしっかりと描写されている。
日本でそれなりの生活をする自分にとっては、目の前に提示される選択肢の中でどれを選んだとしても「ドラッグ」や「組織犯罪(ヤクザ等)」と関わり、簡単に道を踏み外すことはない。だが、コンプトンでは簡単に踏み外せるのだ。そう考えると親がある程度のレールを敷くことは必要なのではないだろうか。父のリチャードは、そんな劣悪な環境から娘を守り、抜け出すためにプロのテニスプレイヤーを目指させる。彼がプロのテニスプレイヤーを目標に選ぶのは、単に栄光とお金が理由ではないだろう。テニスは白人の上流階級に嗜まれるスポーツであり、そこに参入していくことがコンプトンを抜け出す上で何よりも近道と考えたに違いない。作中においても彼女はプロのトレーナーと独占契約を結ぶことで、見事にコンプトンを抜け出していた。
だが、たとえコンプトンを抜け出したとしても、次に子供が待ち受けるのは「子供が子供らしくいられない大人の世界」である。若いうちにプロの世界に入った人はいわゆる一般的な学校生活を通らず、大人の世界に踏み込んでいく。そこには大人の世界の誘惑や危険、つまりドラッグやアルコール、セックスが伴う、それは子供にとってゲットーと変わらない危険だといえる。リチャードはだからこそ安易にプロになることや大会で戦績を積み上げる道を選ばない。学業を両立しなければテニスをさせないルールを設けていたのもあくまで「子供らしく」を大事にしていった。
貧困側に居ることも上流階級に居ることも、子供が子供らしくいられる環境ではない。だからこそ「ドリームプラン」という親が敷くレールが必要となっていく。「ドリームプラン」は決して親が子供も自分の夢を叶えるための人形として、理想を押し付けることでは決してない。親が子供のために責任を果たすということ、子供が子供らしく生きるために守ること、その本質を観ることが出来るのだ。
夢は叶うのか
ただこの映画はあくまで結果論に過ぎないというのでは?という疑念は確かにある。子供がもし、テニスをしたくないと言っていたら?才能がなかったなら?、リチャードの考える「ドリームプラン」はどこまで応用がきくのだろうか。誰もが、プロを目指してプロになれる訳ではない。本作はそんな疑念を払拭するように、実話原作の映画によくみられる逆算的なテーマの設定や展開が用意される。特にビーナスの活躍を知るものにとっては予定調和な物語にしか映らなかったかもしれない。だからこそ、この映画は結果ではなく「親が子を想っている」という部分と、家族を取り巻く「誤解」にこそフォーカスが当てられ、そこに注目して観るべきなのだろう。夢がもし叶わなくとも、親が子を想い、厳格に導くことが諸刃の剣であることを踏まえたうえで、時に子供を危険から守ることになるとこの映画から学ぶ事ができる。