劇場からの失踪

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『ALIVEHOON アライブフーン』 ゲームと実車は大して変わらない 劇場映画批評第62回

題名:『ALIVEHOON アライブフーン』
製作国:日本

監督:下山天監督

脚本:作道雄 高明

音楽:吉川清之

撮影:清川耕史

ドリフト指導:久保川澄花
レースカー実走 :中村直樹 横井昌志 北岡祐輔
公開年:2022年

製作年:2022年

 

目次

 

あらすじ

「ちはやふる」シリーズの野村周平が主演を務め、日本発祥のドリフトレースの世界を、CGに頼らない実車を用いた撮影によるリアルな映像で描いたカーアクション。内向的な性格で人付き合いは苦手だが驚異的なゲームの才能を持つ大羽紘一は、解散の危機に陥ったドリフトチームにスカウトされる。eスポーツの世界で日本一のレーサーになった紘一は、実車でもその才能を発揮して活躍するが、そんな彼の前に、生死を懸けてレースに挑む者たちが立ちはだかる。

引用元:

eiga.com

※以降ネタバレあり

 

今回紹介するのはドリフト業界が総力を掛けて撮ったCGなしのドリフト映画『ALIVEHOON アライブフーン』である。

 

レースゲームのeSportsで日本一だった男が実車のドリフトチームにスカウトされ日本一を目指す、というお話である。
最初はゲームと実車は違うという前提で話がスタートするのかと思ってたが、意外にもゲームと実車は(大羽にとって)大して変わらないという地点から始まっていく。調べてみるとヤン・マーデンボロという実在の選手がe-sportsから転向して実車のプロになっているらしく、現実離れした設定ということでもないらしい。(https://globe.asahi.com/article/14189010

また一緒に観た友人によると、現在のドリフト界においてもリアルシュミレーターと実車の業界の垣根が曖昧になりつつあると聞いていて、"今"のドリフト業界をしっかり反映した内容になっているそうだ。

 

王道スポコン漫画的なストーリーライン

ゲームと実車は変わらない、それを告げるように大羽は初めてのリアルドリフトをかましてみせる。しかし大羽は実際にレースに出場しリアルの怖さを知る。ゲームには生身の人間同士だからこそ戦略があると思い知らされる。だが同時に、彼が個人技としてゲームに挑んでいたのとは違い、チームだからこその良さが実車にはあり、安心して突っ込めるのだとライバルに鼓舞される。(厳密にいえばesportsもチーム競技だけどね)


この一連の流れは王道スポコン漫画的なストーリーラインで凄く熱い。王道って難しいからね、良くできた脚本だと思う。

また特に唸ったのは終わらせ方だ。ちょっと思うことはある(後述する)が、結局esportsの世界に戻っていくというのは良い。eSportsのプロになれなかったから実車のプロになった、という主人公の初期の動機を忘れず、主人公のブレなさがしっかり発揮された結末だといえる。また別の角度から見れば、チームの大切を知ったからこそより「esportsのチーム」に所属したくなったのかもしれない。どちらにせよ、「あれ?実車続けないんだ?」よりも「そりゃそうだよな!」が勝つラストは好きだ。

そこにメインであるドリフト描写がアクセル、クラッチ、ハンドリングのカットインや大胆なカメラワークによって大迫力で盛り込まれて、常に画面にはカッコイイが溢れている。
ドリフトを求めてきた観客の「観たい!」を叶えてくれるカメラワークこそが、本作の白眉であることは間違いない。

 

やりたいことの"限界"

ただ不満点としてはもっと大羽が何故実車のレースにのめり込んだのかを描くべきだった。確かに汲み取れる範囲の演出はあったが、もっと決定的な場面を用意するともっとドリフト描写に集中できた気もする。作り手の"ドリフト愛"というバイアスがかかり、描写の不足に繋がったのかもしれない。

先程後述するといった部分はここに影響を与えるのだが、彼にとって最初はeSportsの代わりでしかなかったレースが彼にとって大事なものとなり、その事がわかった上でeSportsと実車を天秤に掛けた苦悩を描くべきだったとは感じた。まぁそりゃeSportsを選ぶよなの納得感があるので特に違和感はないのだけど。

 

またドリフト描写における画質の問題は気になる人はいるだろう。『シンウルトラマン』においても指摘されていた映像な統一感の無さに関して、最も盛り上がるだろうラストの夜間シーンが一番劣化した映像になっていたのは勿体ないし、それを誤魔化すような幕引きやBGMはやりたいことの"限界"が見え隠れしていた。

 

総評

迫力のドリフトやしっかり王道のドラマは本当に見事で、娯楽作品として充実したものになっていた。ドリフト好きの変態向けにするのではなく、誰もが楽しめるようにチューンナップした姿勢に、本当に多くの人にドリフトを届けたいのだなという心意気を感じた。