劇場からの失踪

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『ロスバンド』モラトリアムを脱出せよ 劇場映画批評第37回

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題名:『ロスバンド』
製作国:ノルウェー
監督: クリスティアン・ロー監督
公開年:2022年

製作年:2018年

 

目次

 

あらすじ

ドラム担当のグリムと、親友でギター兼ボーカルのアクセルはノルウェーのロック大会に出るために練習に励む毎日。グリムはアクセルの音痴が気になってしかたがない。真実を言い出せないまま、念願の大会出場のチケットを手に入れたものの、ベースもいなければ、開催地は遥か北の果ての町・トロムソ。ベーシストのオーディションにやってきた9歳のチェロ少女のティルダを仲間に入れて「ロスバンド」を結成し、近所に住む名ドライバーのマッティンの運転で長旅のドライブに出かけるが……。
果たして4人はトロムソに無事たどり着いて、ロック大会で演奏することができるのか。

引用元:

www.culturallife.jp

 

 

今回紹介するのはノルウェー発の音楽ロードムービー『ロスバンド』だ。監督はクリスティアン・ロー。聴き慣れない方だが、長編三作目である本作は2018年のベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にノミネートされており、無名というわけではないらしい。因みにベルリン国際映画祭ジェネレーション部門は子供を審査員とする部門で、Generation Kplusでは4歳以上の11人の子供、Generation 14plusでは14歳以上の7人の子供が審査をするらしい。つまりは本作が、ジェネレーション部門にノミネートするということはかなり子供向きに作られた作品だといえる。ただ自分のようなもう子供とはいえない年齢の自分でも十分に楽しめる作品であった。

 

音楽ロードムービー

本作を形容するなら、お手本のようなロードムービーと表現するのがしっくりくる。両親の横暴や友人関係などの日常の環境に鬱憤を抱えた少年少女が親の庇護下を離れて旅に出る。その様子はまさに珍道中であり、恋愛があり、傷心があり、その中で更に絆を深めていくことで、少年少女の連帯を高め、成長していく。よくあるティーンたちによる青春ロード―ムービーとして王道を往く作品に仕上がっている。そこに本作は「音楽」の要素が加わってくる。この音楽が非常に素晴らしく、本作の白眉といっても差し支えないだろう。以下にプレイリストを貼るので是非聴いてほしい。個人的には警察署に押し掛けるシーンで流れる「Church Race」がバラバラな4人組のコンビネーションを感じさせる楽曲になっていて好きだ。

ティアン・ロークリスティあアン・ロー

 

モラトリアムを脱出せよ

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上述したように本作は非常にベーシックな青春ロードムービーであり、個人的には非常に満足のいく作品であった。だがとんとん拍子に進む本作を見終わった後に頭を過ぎるのは、彼らはこの後責任を取るのだろうかということであった。つまり、本作の4人組に当然待ち受けるだろうビターな展開を意図的に排除されていることに疑問をもったのだ。この疑問は「子供向け」という前提を欠いたものなので、無粋だと思う人もいるだろう。だが敢えて書くとすると、彼らは責任を負うべきだった、あるいは現実を自覚するべきだったのではないか。

彼らが追う責任とは例えば、ティルダの誘拐についてであったり、無免許運転、兄貴の車について、警察署からの逃亡などが挙げられる。そして何より彼らが出た大会での結果があやふやにされているのはどうなのだろうか。大会後の雰囲気からすると負けてはいるだろうが、ともかく道中の冒険に満足するのではなく、結果をしっかり受け止める姿を描いてほしかったと思ってしまうのが正直なところだ。

これらの責任や"現実"について描かれないことは、彼らの旅が結局モラトリアムから出ることはなかったことを意味する。彼らはうるさい親元を離れて、子供だけのパラダイスとして旅を始める。しかし道中の大人もほとんどが優しく、旅行も概ね順調に進んでいくため、モラトリアムを脱しているようにはみえない。それならば、その反面として親元にいたからこそ知らなかった現実や大変さを描くことで、しっかりモラトリアムを脱出するべきだったのではないか。

 

最後に

ここまで散々文句垂れながらも、楽しめはしたのだ。笑えるところは笑えたし、キャラクター達も全員愛くるしかった。なのでこんなあたまでっかちになる前の方、特に子供にこそ観てほしい作品だった。