劇場からの失踪

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『アンビュランス/Ambulance』救命の尊さをベイが描くとこうなります 劇場映画批評第53回

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題名:『アンビュランス/Ambulance
製作国:アメリカ

監督:マイケル・ベイ監督

脚本:クリス・フェダク

音楽:ローン・バルフェ

撮影:ロベルト・デ・アンジェリス

美術:カレン・フリック
公開年:2022年

 

目次

 

あらすじ

アフガニスタンからの帰還兵ウィルは、出産直後の妻が病に侵され、その治療には莫大な費用がかかるが保険金も降りず、役所に問い合わせてもたらい回しにされるだけだった。なんとかして妻の治療費を工面しようと、血のつながらない兄のダニーに助けを求めるウィル。犯罪に手を染めるダニーが提案したのは、3200万円ドル(約36億円)もの大金を強奪する銀行強盗だった。計画通りならば、誰も傷つけることなく大金だけを手にするはずだったが、狂いが生じて2人は警察に追われる事態に。やむを得ず逃走用に救急車に乗り込んだ2人だったが、その救急車はウィルに撃たれて瀕死となった警官を乗せていた。乗り合わせた救命士キャムも巻き込み、ダニーとウィルはロサンゼルス中を猛スピードで爆走することになる。

引用元:

eiga.com

※以降ネタバレあり

 

今回紹介するのは、マイケル・ベイの最新作『アンビュランス/Ambulance』だ。ジェイク・ギレンホールとヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世が兄弟を演じ、事件に巻き込まれる救命士を演じるのはエイザ・ゴンザレス。これまでのフィルモグラフィーのキャストと比較してみると、まさにマイケル・ベイ好みのキャスティングだといえる。

本作は、『トランスフォーマー』の酷い続編や『6アンダーグラウンド』などの微妙な作品を連発していた彼が、狂気の天才監督として見事に復活した作品となっています。では、早速語っていきましょう。

 

救命の尊さをベイが描くとこうなります。

「マイケル・ベイが「救命の尊さ」を描くとしたら、この映画になる。」

武装した兄弟と、救命士、そして瀕死の警官を乗せた救急車がノンストップでLAを爆走する。追いかける警察車両は宙を舞い、銃声が街中で響き、ありえない火薬の量で爆発しそうなものは全て爆発する。

地獄の逃避行のきっかけは、ウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が警察を撃ったことのはずだ。だが「救命行動は何よりも尊い」この映画では、彼がその警官の命を救おうと、様々なトラブルを対処していく彼は、確かな聖人として描かれる。

自分で殺しかけた相手を救うこと、たとえそんなマッチポンプだとしても、救命は尊く、その行為に従事するものは素晴らしいのだ。映画終盤でウィルを責め立てる警官の相棒に「ウィルが警察を救ってくれたのよ」と救命士キャムは声を上げるのだから、もう笑うしかない。

そんな展開、普段じゃ非難していたかもしれない。だがマイケル・ベイなら、この狂気は、正気であり、「マイケル・ベイが「救命の尊さ」を描くとしたら、この映画になる。」と言われれば、ただ納得してしまう。

現に本作は冷静に見れば、「妻の治療費を兄に借りに行ったら、銀行強盗に巻き込まれる」というそもそもの導入から破綻している気がする。だが、本作は冷静ではいられないようにバカ(偏差値の低いギャグや仰々しいカメラワーク)と天才(計算されたカーチェイスやカーチェイス)を高速かつノンストップで行き来することで、"熱量"が生まれ、最後まで冷静にさせてくれない。

特に今回功を奏したのが、「逃走劇」であり「救命劇」という目的がシンプルなプロットだったことはあるだろう。6アンダーグラウンド』が時系列を組み替えたりした結果、よく分からない作品になってしまったのに対し、至ってシンプルなストーリーの本作は彼の高カロリーの演出や照明、カット割り、編集にクラクラしながらも物語の指向性がはっきりしているため置いてきぼりを食らうことはない。(途中でマフィアとの抗争を始めたりするのも愛嬌)

「マイケル・ベイだから許せる」というよりも「マイケル・ベイはこれを許せる映画を作ることができる」天才なのだと、本作で見事に証明している

 

映画的なアメリカ

マイケル・ベイの出世作である『バッド・ボーイズ』は、長回しで火薬MAXなアクションシーンやウィル・スミスとマーティン・ローレンスの最強タッグのコンビネーションなど様々な点で評価できる作品だが、その一つとして「街」を美しく撮られているという点はあると思っている。

『バッド・ボーイズ』の舞台であるマイアミを照明を大量に当てて、くっきりとした画で撮る。そこにはスポーツカーやゴージャスな美女など"映画的なアメリカ"がはっきりと描写されていた。『アンビュランス』もまたLAを救急車で爆走するという物語でありながらも、本作は一種のLAの観光ムービーのように、様々な場所をカットインさせ、"映画的なアメリカ"が刻印されていた。

思えば、そういった"映画的なアメリカ"を撮ることができる監督は、少ないのではないだろうか。近年のアメリカを舞台にした映画は、どこか無国籍な雰囲気であったり、極端に古きアメリカを引用する。2000年代後半から2010年代前半に見た、お茶の間のアメリカは今や絶滅危惧種なのだろう。(トニー・スコットの死が悔やまれる)

一切欧州の気配をさせない、純アメリカ産の映像をスクリーンに呼び起こし、お茶の間でかつて見た映画への郷愁すら帯びた映画を作れる監督として、まず間違いなくマイケル・ベイは一番に名前が上がるはずだ。

 

最後に

陳腐なテーマをA級に撮れる才能と、"映画的なアメリカ"を今スクリーンに呼び出してくれるアーティストとしてマイケル・ベイは時が経つほど、傑出した監督として価値が上がっていく。

近年の迷走気味だったマイケル・ベイが、『バッド・ボーイズ2』の狂気を取り戻し、高らかに復活を宣言した傑作として、本当に喜ばしい限りである。

マイケル・ベイの最高傑作を『ペイン&ゲイン』と上げる人もいれば、『トランスフォーマー』とする人もいるだろう。

だが、いま私は『アンビュランス』を最高傑作として挙げたい